秀孫 - 嫉の矛先

戦国無双より豊臣秀吉×雑賀孫市(がちゅんないのでリバ寄)
戦ムソが誇る二大女好き武将のお話


 「秀吉、またフラれたのか。」
孫市がその友秀吉の心中を察せずいつも通り明朗に尋ねた。
「うるさい。しばらく一人にしてくれんのか。」
"また"女にフラれた秀吉が拗ねたように言う。
「今度は誰に?」
態度を改めるでもなく更に孫市が尋ねる。じとり。秀吉が孫市を睨んだ。
「立花殿じゃぁ。あの女子は気が強すぎるて。思いっきり叩かれてしもうた。」
叩かれた方であろう右頬をさすりながら秀吉が言う。ほんの少し目が潤んでいることに孫市が目敏く気付いた。
「はははは。」
孫市の乾いた笑い。目が笑っていないことからも本気で笑っていないことが見て取れる。だが秀吉はそのことに気付かなかった。

 「秀吉。」
一瞬の沈黙の後、孫市が不意に真面目な声で秀吉に呼びかけた。その間秀吉は終始俯いたままだった。そして猶も答える声がない。
「秀吉。」
再度声がかかる。秀吉は項垂れる頭を少し動かしたが矢張り答えようとしない。
「秀吉、返事くらいしてくれよ。」
しびれを切らした孫市が秀吉の肩に手を置こうとした、その時。
「おみゃーさんには、ワシの気持ちがわからないんさ!!」
秀吉が孫市の手を振り払い激しい剣幕で行った。その目には、確かに涙が浮かんでいた。孫市は愕然としながらも言葉を失い秀吉の続く言葉を待つしかなかった。
「ワシはなぁ、ワシはなぁ、孫市っ! おみゃーさんにだけは負けとぅないんじゃ!」
肩を怒らせて必死に言う秀吉。孫市は振り払われた手を下ろさないままただ愕然とした表情ので聞いていた。そして孫市も慎重に言葉を選び、紡ぐ。
「秀吉、そんなに怒らないでくれよ。第一俺の何がお前に勝ってるって言うんだよ。お前は農民から立派な大名になったんじゃないのか。」
そんな孫市の言葉を、秀吉は興奮冷め遣らぬままに聞いていた。
「違う!違う違う違う!! ワシはそんなことを言ってるんじゃないんさっ!」
子供のように駄々を捏ねる秀吉を見る孫市の目には、戸惑いと一抹の哀れみのようなものが宿っていた。
「孫市が女をとっかえひっかえしてるのを見るたびに、ワシは悔しくて仕方がないんじゃ。……悔しいて、胸の奥が締め付けられるほど痛むんさ!!」
興奮したせいで秀吉の顔は赤らみ、息も荒い。その上目には涙をたたえている。孫市は秀吉の言葉も遮音器越しに聞くように脳への伝達が遅いまま、そんな秀吉の姿を情事の中の女のようだと虚ろに思った。
「秀吉、誤解だ。」
孫市は首を横に振りながら言う。無論その行為は秀吉への否定もあるがそれだけではなく、先程のおよそ場違いで淫らな想像を振り払うためでもあったことを本人の理性は自覚していた。
「何が誤解なんじゃ。」
秀吉はもはや半泣きから本泣きへの境地に達しようとしていた。そんな秀吉の様子を見かねて孫市は宥めるように言う。

 「なあ、聞いてくれ秀吉。それは嫉妬だろう。」
しかしこの言葉が余計秀吉の逆鱗に触れた。
「ワシがみっともないことなどわかっとる! じゃが仕方がないて、この痛みをワシはどう処理すればいいと言うんじゃ!?」
秀吉は今にも喰いかからん勢いで言った。言われた孫市は選んだ言葉の誤りに額に手を当て苦悶する。秀吉が今にも暴れだしそうな勢いのため、孫市は自ら秀吉に歩みより、少なからず自分が上回る体格で覆うように秀吉の腕を掴んだ。孫市が出来得る限りの優しさで。
「違う。聞け秀吉。」
息がかかるほど接近して孫市が言う。秀吉は落ち着いたわけではないが孫市に掴まれた腕を振りほどこうとしたりはしなかった。
「嫉妬してるのは俺にじゃない。女共にだろう、秀吉。」
先程まで声を荒げて罵り合ったところから一転。孫市は囁くように諭すように秀吉の耳元で言う。
「何を言う!!……」
予想しない展開と孫市の言葉に、秀吉が少し体を強張らせた。
「なあ、前から言おうと思ってた。近頃お前が声をかける女はどれも的が外れてはいないか?立花は確かにいい女かも知れねえが、少なくともお前が好むような器量は持ち合わせていないだろうよ。」
孫市は秀吉の緊張を解そうと猶も柔らかく言う。
「しょっちゅう女性に声をかける俺への対抗心かも知れないが、お前が望むのは寧ろ女ではなく俺のように思えてくる。」
その孫市の言葉を聞いた刹那秀吉は、心に思い当たることがあるような顔をした後、信じられないといった侮蔑にも似た表情へと変化させた。
「少なくとも俺はそう望むよ。お前に振り向いてほしくてわざと女性をたぶらかしたりするほどなんだからな。」
柄にも無く孫市は本気で愛を告げた。表面上余裕を装うが普段女性に本気さをちらつかせることは無く、内面でだけ激しく赤面した。だがこの言葉は遠まわしすぎた。秀吉は状況を飲み込めずに孫市の腕を振り払った。
「結局おみゃーさんは何が言いたいんさ! ワシを笑いたくば笑えばいいじゃろう。」
秀吉は泣き止んでいて、それでもまだ顔は赤かった。そんな秀吉を見て孫市は小さく笑った。
「どう言えば解ってもらえるかな。俺は女を抱くのには興味ねえよ。ただお前が好きでお前に抱かれたいと、そう思うだけだ。」
秀吉の表情が一転する。最初に何かを悟ったような顔をして、次にまた信じられないといった表情をしてみせた。今度の"信じられない"に侮蔑の色はない。
「孫市、本気で言っとるの、か? ワシにはとても、信じられんさ……。」
身長差のせいで孫市を上目遣いに仰ぐように秀吉が言う。

 「信じられないなら抱いてみればいい。俺はいつでもお前を受け入れたいからな。わかってくれよ秀吉。」
孫市が秀吉の背を押し雑賀の居城、ひいては孫市の部屋へと促した。







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