「あんたも酔狂な御仁だ。」
宵闇に軽口が飛ぶ。其処に在る影が身じろいで反応を返す。まだ明かりを落とす時刻ではないが、その男の希望で離れでひっそり、今に至る。見えずともその顔が赤面しているのが容易に想像出来るのが可笑しくて笑みを零すと、噛み付くように幸村が言う。
「言って下さるな、左近殿。」
「えぇ? いつか衆道の閨に上る日が来る前に抱けと言うのは酔狂じゃないんですかい。それじゃ本末転倒だ。」
清いままの身体を惜しむならば最後の時まで取って置けば良いものを、どういうわけか今宵幸村は訪ねて来た。訪ねて来て、抱けと言う。
「左近殿は、違うのです。上手くはお伝え出来ませんが、左近殿だけは。」
幸村はいつになく慎重に言葉を選ぶ。この男のこういった、誰にでも丁寧な姿勢は好感を持ちやすいが反面、どういうわけか俺に嫉妬に似た感情をもたらす。
「俺にそれだけの評価を下さる意図が解りませんね。」
「意図だなんて、そんな。」
思ったとおり、幸村は性急に否定のことばを述べる。
「では特別な感情とは。幸村はこの左近が好きと?」
幸村は真っ直ぐで解りやすい。だから
「そう、かも知れません。私は左近殿にこそ……。」
"かも知れない"なんて曖昧な言い回しをすることすら予測出来た。言葉尻を濁すような純な物言いも。自分がしたのは誘導尋問であることには目を瞑って。
「本当に、可愛い人だ。」
そう言って床に押し倒せば期待の色を慌てて隠すよう固く瞼を結ぶ。そういう仕種が可愛いと言うのを、たぶんこの男は無自覚なまましている。誘導尋問を受けているのは此方なのかも知れない。
ちゅ、
熱っぽく瞼に口付けを落とせばうっすらと幸村が目を開ける。見せ付けるように、見つめ合いながら舌と舌とを絡めて深く口付ければ幸村は再び夢見心地な目付きに成る。それでも応えようと懸命に舌を伸ばしてくることすら、可愛らしい。絆されているのが己れか相手か解らないままに、仕舞いと幸村の口膣中ひと舐めして顔を離す。繋がった銀糸は口を閉じられないまま浅く息をする幸村の舌の上に落ちた。
「うんざりするほど、善がらせてあげますよ。」
言いながら幸村の手を取り、指の股を舌先で舐める。口付けの後の口淫はよく滑り艶かしく蠢く。幸村が鼻にかかる息を吐くようになるのに時間はかからなかった。
次は首筋。ささくれ立った指先が掠めると調度善い感触になるらしく、幸村は必死に首を竦めて見せた。開いた腰を掌で撫で摩ると遂に小さく声が漏れた。
「何処も彼処も気を遣って下さい、直ぐに天竺へ行けますよ。」
「何を、笑って。ん……。」
白い首筋に吸い付くとまた、幸村が首を竦め。そうなると他が無防備になる。なんてわかりやすい。なんてやりやすい。乳頭を指で弾く。大袈裟な反応。取り留めない問答の果てに己れの気が済んだ頃には、幸村のそれは張り詰めたようになっていた。
「辛そうだ、触れてもいないのに。」
実際に触れて仕舞わぬよう細心の注意を払いながら指を沿わせる。ふと幸村の足元に手を置くと、その身体が震えているのに気付いた。
「もう、仕舞いにしますか。」
そう言って覗き込んだ瞳には涙。
「本当に辛いなら止せと言えばいいものを。」
内心やり過ぎたと焦りながら、そっと幸村の着流しを正そうと手を伸ばした。伸ばした手を幸村の冷たい手が止める。
「お願いしたのは私の方です。辛い、などなくて、その。」
「気持ちよかった、ですか?」
耳元で囁くと、顔を真っ赤にした幸村が余りに勢いよく頷くのにぶつかってしまった。色気が無くてお互い笑う。
「それは、よかった。」
立ち上がったままのモノに手を伸ばしかけると、また幸村の身体が震え出す。顔を見るとゆっくりと頷くので、口付けを一つ与えてモノに触れた。
指を絡めて裏筋を辿る。辿った先の根本を締めながら同時に先っぽも弄くるとまた幸村が泣きそうな顔をする。
「う、あ……。」
堪え切れず声が漏れ出でたところで少し強めに爪を立てる。
「ひん、っ…!」
余りのことに幸村が一際高い声を上げて抱き着いてきた。しっかりと、背に爪を立てられる。悪かった、と口付けて頭を撫でて、それからそっと扱くのを再開する。幸村は涙目で睨み付けてきたがそれもすぐにとろりと蕩けた。
「あ、左近殿、止めっ…!」
力が抜けていた手に再び力が篭る。意味を解った上で幸村を高みまで導いて、それから、問う。
「何か?」
幸村は今の意地悪も対処出来ないほど感じ入っているようで浅い呼吸を繰り返す。果てた精が掌にあるのを見せて、笑う。
「千摺りと変わらんでしょう。」
些か余裕を取り戻した幸村はさっと顔を赤らめた。
「触り方が違います。」
「でしょうね。」
軽くいなしながら起き上がろうとする幸村を再び押し戻す。幸村はされるがままに倒れた。
「力は抜いてて下さいよ、怪我させたくない。」
上気したままの表情で幸村が頷いた。それを確認すると後孔に白濁を塗りこめる。粘こい上にするするとよく滑るそれは宛ら潤滑液だ。
「左近殿、変な、感じが致します。」
幸村が遠くから言う。与えられる感触を少しでも善いものと捕らえようと試みているのかも知れない。
「ヘン、が、直に善くなる。」
言っている間も指はするするすると、孔の周りを彷徨うだけ。彷徨うだけでもう少し解れてきた気がするのは、初めての身に錯覚だろう。もう少しだけ、するするする。幸村の呼吸がまた荒くなる。
「知ってます? ここの感度は唇と同じだそうで。出すばかりの孔が勿体の無いことだ。」
言いながら逆の手で幸村の唇へと手を伸ばす。よく濡れた唇は丁度善い厚みを持っていて触る指に心地が善かった。そう思いながら、尻の手と唇と、同じ動きをしてわざと意識させる。幸村の表情が、変わる。
「……と、」
かぷ、と歯を立てず可愛らしくその口が指を吸い込む。中で舌先がチロチロと動くのが解る。悩ましげな幸村の顔。
「ほほう。」
口角だけを吊り上げて笑う。
「では此方も。」
言って、くるり。ひと撫でしてから後ろの指を埋めた。白濁のお陰でするりと入り込む。幸村は一瞬眉根を寄せたが口指を離さない。大丈夫と受け取って広げるように指を動かす。くるりくるり。
「善くなってきましたか。」
呼吸が侭ならなくなってきた幸村が口を離す。序でにあ、と呟く声も聞こえた。
「左近殿、まだいけますよ。」
め一杯顔を上気させて幸村が言う。目だけで返事をして、入っている指をぐりぐりと強く動かす。すると、当たったようだ。睾丸の裏側辺り。ざらざらとした感触。
「……ッあ!」
余裕を見せた幸村だったが、これは流石に声を漏らした。腰も、大きくびくんと撥ねた。
「痛みは? こっちは、ホラ。二本めが入りましたよ。」
浅く突き入れた二本めの指を、ゆるゆると蠢かしてから奥へと埋める。その拍子にまた善いところに当たったようで、幸村の腰が撥ね、二本めの指は完全に入った。弄れば弄るだけ大袈裟なほど反応する幸村に気をよくして、少し調子に乗って指を動かす。ぐるりぐるり。執拗に其処を狙って。目尻から一筋涙が流れたのを見つけたのと同時に幸村が言う。
「左近殿、善い、気持ち善い、です……!」
それと解ると性急に指を抜いた。幸村が一瞬、呆けたような顔をしたが、己れの一物を前に晒すとまた照れたように赤面した。
「痛かったら我慢しなさんな。」
ぐ、押し当てて、腰を進める。ゆっくりゆっくりとだが確実に入っていく。実に前戯だけで半刻が過ぎていた。
――
「実は。左近殿、……。」
事後に、幸村が赤面したままの顔で言う。痛みも無く無事にことを終えた。
「まらは勿論初めてですが、この日の為に私、自分で慣らして参りました。」
初心で素直だと思っていた弟のような存在の幸村。まんまと誘導尋問に嵌められていたのだ。