慶幸 - 道

戦国無双より前田慶次×真田幸村
真夜中のお散歩のお話。昔に街灯はありません。


 「け、慶次殿……。」
月すら沈んでしまった真夜中のこと。忍も寝静まった夜の城下は昼間とは裏腹に人気などあるはずもなく、また闇ばかりで何も見えない。
「慶次殿には見えておいでで?」
幸村は慶次に手を引かれながら怖ず怖ずと尋ねた。
「ああ。不思議と見えるもんだ……あんたは見えないかい?」
何も見えない幸村にとって慶次の声は太陽のように穏やかに暖かいものだった。戦場の雄叫びとはまるで別物のようだ。
「わりぃな、連れ出しちまって。」
手を繋ぐ相手すらよく見えない暗闇の中で慶次は悠々と、ゆっくりと歩いた。その歩調と、話す調子がちょうど同じようなものだった。
「いえ、気を使って下さったのでしょう。私こそすみません、私が寝付けないばかりに。」
幸村と慶次は枕を並べたが、幸村はなかなか寝付けず、結局慶次が幸村を真夜中の町並みに連れ出したのだ。
「夜風が気持ちいねぇ。幸村、寒くはないか?」
慶次が不意に歩みを止めて呟いた。後ろからついて歩いた幸村は慶次の大きな背中にぶつかることになる。
「こうして歩こうか。」
幸村がただ驚くばかりで何も言えずにいると、慶次は幸村の肩を抱き込み、その痩躯を引き寄せた。
「誰かに見られては……。」
「あんた一、二尺も離れてそこに誰と誰がいるのか見えるかい?」
慶次が笑って言った。こうも暗くては言うように本当に何も見えはしないのでわからないが、幸村にはなんとなく慶次が笑ったように思えた。
「見えますよ、ちゃんと。」
そう言って幸村も慶次の背に腕を回し、その身を寄せた。見えないから、しかと離れぬようにしなければならないから。

 寄り添った男の身体は温かかった。その温もりが何よりの道標。







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