猿風 - 忍ビトイウ

戦国バサラより猿飛佐助×風魔小太郎
引ク題さまからお題「呼吸制御」。
お題がお題だけにハードコア。ヤンデレ佐助が苦手な方は回れ右。


 これはまぐれだ。大きな幸運だ。思ったよりも軽い身体を抱えて木々の間を縫う。不意打ちだった。秘境だった。もしかしたら間違いだったかも知れない。俺は、風を、伝説の風を、捕まえた。

 特に任務があったわけでもない、強いて理由を挙げるなら「気になって」俺は風魔の後を尾けた。伝説の忍が俺の尾行に気付いていないなんてまさかだったけど、そう、まさか。彼は足を引き摺るようにして走っていた。そのうちに、俺にもばればれの忍の追手。風魔は迎え撃つように立ち止り、俺は隠れた。手負いの風魔も、目が血走った忍も、俺に気付かない。追手は六人居た。それっぽっちの数と俺が見込んだ通り、五人目まではあっさり散った。残ったのは小隊長だか臆病者だかで、風魔は痛みを思わせない動きで最後の一人に着手する。今、だ。本能が告げる。敵を手に掛ける瞬間というのは生物である以上必ず隙が出来る。その隙を如何に少なくするかというのが忍術であるが、其処へ来て風魔は疲労していて、傷を負っていた。人間が地に伏す音が二つ重なる。

 そうして風魔を最寄の隠れ家(と言っても民家だ)に連れ込んだのも、強いて付け足さなければならない程に深い意味はない。俺は風魔に憧れに近い念を抱いていたが、彼は俺のことを知りもしないだろう。逆に何をしているんだ俺は、なんて自責をしてみたり。かと思えば一先ず足の治療をしてみたり。ちなみにどうもそれは罠に因るものらしかった。やれやれ。そうこうしているうちに風魔が意識を取り戻す。俺様、殺されちゃうかな。
「…………。」
「……起きた?」
俺を見て起き上った瞬間に張り詰める空気。流石伝説の忍は違うね。
「えっとソレ、一応手当はしたけど……火薬、だよね? 臭いでわかんなかった?」
何度かやり直してやっと小奇麗に留まった足の包帯を指して言う。風魔は口を開きかけて徐に鼻を詰めるような仕草をした。
「薬莢?」
では無いにしろ、風魔の鼻に詰まっていたらしきそれは小さな火薬のカタマリだった。成程火薬が詰まった鼻で火薬を嗅ぎ分けるのはいかに風魔の小太郎と謂えど無茶な話だ。相当に手の込んだ罠ということだろうか。なんてことを柄にもなく心配していると(心配? そうかこれは心配か)、何の前触れもなく風魔が俺の手を取った。それにしたってこの男、全くと言っていい程前後動作が無いのだ。俺がこんな危険人物から目を離しわけがない。それで慌てて手を引き払うと、風魔が初めて無表情以外の顔をして見せた。
「あ、……ごめん。」
恐る恐る手を差し出し直すと風魔は掌に文字を書いている。”…ア、リ、ガ、ト…”おぉお、伝説の忍殿が俺の手を握って感謝している……何でだ? 俺を指差して……今度は大袈裟に唇を動かす。”シ、ン、ジ、ル” 伝説の忍が声を持たないというのは本当らしい。それにしても一種尊敬していた風魔小太郎が俺(しのび)を信じるだなんて。

 何故だか、錆びを噛み潰した、ような心地を、脳の奥に、感じた。


 俺は泣いていたのかも知れない。情けなく涙を流して、夢中で。一歩間違えば殺されていたかも知れない。強大な”敵”を前に、霧中で。ただ筋違いの激情を相手にぶつけるように、無中で、限りなく無中で、伝説の忍を犯した。
「……はは、”アンタは”泣くんだ。”俺は”泣いてる? ああ、だめだ。俺様もアンタも忍なんだから、心なんて、……殺さなきゃ。」
舌を強く噛むと血が滲みボタボタと零れた。腰の動きを止めないまま舌を噛む俺は莫迦だと、考えない脳が零れた血を追う。血は圧しかかった風魔の顔に落ちる。繋がった部位から来る感覚は、気持ち善すぎて気持ち悪くて快い。赤に導かれるように思っていたよりずっと儚い首筋に指を絡めた。ヒュウッ、声無き吐息が耳に届くより早く自身が締め付けられるのを感じる。
「…っはは、今締まったよ。首絞められてキモチイ?」
とうとう風魔は俺を物凄い力で押し退けた。この細腕のどこにそんな力があるのだろう、なんて考えるでもなく考えると、噛み切れなかった舌の痛みが戻ってきた。
「ヒてぇー……。」
些か冷えてきた頭でああ俺死ななかった、と思う。風魔が起き上がるのを感じて、やっぱり死ぬと思った。目を閉じると唇に熱。血の味を絡め取られるように風魔に口付けられている。驚いたが思考は追い付かない。何だコレ。

 口付けは暫く続いた。どれくらい続いたかはわからないが、気が付くと舌が治っていたのだから不思議な話だ。小太郎の手当をし直して(後ろは切れていなかった。無我夢中で前戯なんかしたのか俺様。んな莫迦な。)、見ると風は何事も無かったかのようにケロリとしていた。その顔を見るに、ひょっとしたら其処は切れたけれども、もう治ったのかも知れない。後者の方が現実味があるという現実を内心笑って、怖ず怖ずと口を開く。
「あの、さ……俺が言えた義理じゃないけど、あんま他人のこと信じない方がいいよ。アンタ伝説の忍だけど、何か危ういからさ。」
言うと風魔は静かに首を横に振った。後から思うとその表情は笑っていたのかも知れないが、彼は足の包帯を黙って解き、何事も無かったように出て行った。治ってたのかな、なんて思いながら見送る。俺の溜息だけが空しく響いて。


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