明毛 - 雁字

戦国バサラより明智光秀×毛利元就
引ク題さまからお題「拘束」。


 足音が、近付いてくる。神経質に踵から爪先へと流れるように、けれど床が冷たいのか踏みしめるのは足の外側だけと聞いて取れる。体重はそれ程重くないが、音の感覚が長いことから女ではないとわかる。足音だけでその男の接近を知ることが出来る程に焦がれた身体が震える。襖を開く音と共に冷たい空気が入り込んできた。
「どれくらい経ちました。」
錠がかかる音を無視して尋ねると空気の動きが男の視線を伝え、三刻。と冷たい声がそれだけ答えた。声質はどこか甘いくらいなのにそう思わせないのには一種の才能を感じる。
「それではもう日が暮れてしまったのですね。途中眠ってしまっていたようです。」
顔に笑みを貼りつけたまま言う。不意に目隠しが取り去られると成程、辺りは暗くかなりの時間の経過を感じた。
「で、貴様は一体何をしに来たのだ。」
公が縛られた私と視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。普段神経質そうな振舞いをする割にこの様はどこか粗暴でその差に時めく。
「遊びに来ました。お久しぶりです、元就公。」
礼儀よく、行儀よくと心掛けて挨拶するも、公は顔色一つ変えず溜息を吐いた。勿論、登城の際確か門番の男を一人”いただいた”のでこうして縛られこそすれ歓迎など望むべくもないと思いだす。そう思っていると公は私の後ろに回って縄を解き始めた。縄を意識すると少しばかり気になって腕を動かしてみたが、矢張りというべきか身体の自由は無い。縄が緩めば腕も多少動き、動けば縄が緩むのでそうしているうちに縄は解けた。
「おや、もう解放ですか。」
「残念そうに言うでないわ、愚か者め。」
自由になった手を動かしながら言うと、公は理解し難いものを見るような眼で私を見て言った。ああ、もっと蔑視を、元就公。
「もう少しで縄酔いを起こせそうだったのですけどね。」
言うと今度は怪訝そうな顔。”縄酔い?”

 「ふふ、教えて差し上げましょうか。」
その場に置いてあったままの縄を取り上げ公に歩み寄ると小さな体が竦み上がった。
「先程の私のは少し違うのですけどね。」
言いながら腕を取り上げ背中に回す、抵抗されれば無理にでもまとめ上げた。
「縄目の具合が完璧なら、……私はまだまだですが、縛られた者はある種の陶酔を覚えるようになるんですよ。縛り方も大切ですし、きつすぎても、緩くてもいけません。……どうですか?」
一通りの説明が終わる頃には上半身だけだがそれなりには本式の高手小手縛りが出来上がっていた。勿論、矜持の高い公はしこたま暴れたが、無視してなんとか仕上げたのだ。
「貴様、自分の立場が分かっていないのか。」
そう言いながら幾分体格に劣るせいで睨め上げるようになる視線が快い。笑うまま答えないでいるとそれすら癪に障ったのか蹴り付けてきた。それが成功していればまだ良かったのかも知れない、普段足技を使わない公が腕の自由が利かないまま足を振り上げたりするものだから転倒は必至。仕方なく抱き留めると顔を真赤にして怒鳴った。
「我を愚弄するか、光秀!」
「黙って下さい。」
倒れた公をそのまま閨に下ろし着流しから流れる足を掴む。細い。下手をすれば女のそれより細い足首を恭しく掴んで冷えた指先を舐った。公は足を振り払うこともせず呆然とした様子で私を見ていた。熱く息を吹きかけると我に返ったように足を引っこめたが、そんなことは気にならない。顔を寄せて覗き込むと赤らみ潤んだ瞳が愛しい。私を必死に睨んでくるのはなお愛しい。

 「あなたもなかなかヘンタイですね、元就公。」

 縛られて足を舐られて。たったそれだけの問答で、ソコは少しばかり盛り上がっていた。


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