松風 - 春の夜のの如し

戦国バサラより松永久秀×風魔小太郎
無常と風魔の恋のお話。


 「ふう……、」
声は溜息にも成らないで打ちとめられた。覆い被さるように一陣の旋風が松永の頭上から舞い降りて、彼は求めた人の到着を知る。その速さたるや、名を呼び終えることも許さないほどだ。
「毎度律儀なことだが、今日はどうしたね。二文字も卿の名を呼ぶことが出来るとは。」
特に気にした風も無く松永は今しがた到着した風魔に問う。とはいえ彼は風魔に言葉が無いことを知っているので、独り言の体を成すばかりだった。それでも風魔は申し訳なさそうにその場に傅く。老荘たる男と痩躯の声無き伝説の忍の関係性はどこまでもちぐはぐに噛み合わず、そこで漸く松永は風魔を振り返り、彼が傅いているのを見た。
「いや失敬、卿の速さは充分以上だ。それに大した用でもないのだよ。」
笑ってそう言うと風魔は顔を上げて松永を見た。目でものを見ない彼は、松永の話す雰囲気に良からぬものを感じ取り、それが余るものであれば契約外だと断る身構えをした。続きを、用件を促すように風魔が松永を見て頷く。そんな風魔の気概を見越したように松長は続けた。
「伝説の忍殿に頼みつけることでないとは承知しているのだがね、肩を揉んではくれないか。」
平時は老いを見せない松永の物言いは勿論風魔を驚かせた。が、風魔はすぐに断る方が面倒と判じて松永の背後に立った。特に何の感慨も持たず彼の肩に触れ、手に力を入れると、すとん。彼の肩が何の前触れも無く一寸ほど下がった。ほんの一瞬だけ、何事かと風魔が焦りを見せる。
「済まない、まさか本当にしてくれるとは。」
松永はこちらに一瞥もくれずそれだけ言った。なるほど風魔は松永が肩の緊張を解いたのだと理解する。手前で頼んでおいて信用せず強張っているなどらしくない、いやいっそらしいのだろうかと思いながら肩をやわりと掴んだ。
「いやに巧いな、小田原であの老骨の肩を揉まされるのか。」
言われても、元来言葉を持たない風魔は答えなかった。代わりに少し強く肩を掴む。松長はその風魔の返答に小さく声に出して笑った。

 日差しが心地よく射している。晩秋の日に、この陽気はまるで冬の到来を拒むようで、そんな日にはいかに伝説の忍と言えど気を抜けば眠くなる。眠気も欲望も黙殺出来る忍ですらそうなのだから、松永は縁側に射し込む日差しに眠気を誘われた。眠気覚ましにと不図思い付いて声なき忍に語りかける。
「赤松……。」
突然の切り出しに風魔は疑問符を浮かべる。松長は小さく笑って仕切り直すように続けた。
「城郭の外れにある赤松だろう、卿が控えているのは。」
手持無沙汰な筆を宙に浮かせ視界の片隅にある赤松を指す。枝振りの見事な老木は深いふかい緑の葉を咲かせて佇んでいた。風魔は答えないで赤松を見る。
「あんまり馳せ参ずるのが早いものだからいつも何処に居るのかと思っていたのだがね。」
成程あんな木もあったな、松長は続けて言った。風魔は自分の動きを普通の人間の目で追われた引け目を感じながら黙って続けた。発つとき枝を震わせることもなければ葉一つ落とさない、風を目で追えるのは鳥と忍だけとの自負が静かに疵付いた。

「あの木は死ぬ。」
唐突な松永の言葉に風魔の手が止まる。
「いずれ、死ぬ。」
松永は止まった手を気にせず言葉を重ねた。低く掠れた声に風魔は息を飲み、今まで感じたことのない感情を抱いた。どこか居た堪れなさに似た、忍が持ち合わせない感情。

 別にあの木でなければならないことはないのだ。束の間の滞在のひと時の依代。それなのに風魔は自ら理由もわからずその感情に飲まれた。飲み下すことも出来ずに、散々揉んで暖かくなった松永の背肩に、ただ額を預けた。

蛇足(反転)→松永が匂わせた無常観な言葉に、
風魔は意外と心地よかった松永との関係にもいつか終りが来ると知ってちょっとした絶望を味わいます。
あれ何で自分こんな気持ちになるのってそれは風魔が松永のことを好きだからです。
って書かないとわからない話を書くなってね。そこは自分で咀嚼してもらいたかったので反転にしました。お粗末。

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