政宗殿は――……、真先に浮かぶのが戦さ場での姿である辺り、某はまだ政宗殿のことを戦宿友か何かと認識しているのかもしれない。思えば邂逅が戦さ場で、初めて仕合ったときの感覚は今も忘れない。それまで一人でただ鍛錬に鍛錬を重ね、ひたすらに己れを磨いてきた。雷鳴の如くその驕りを打ち砕いたのが若き奥州の竜だったのだ。齢同じ程の相手に感じたのは運命に似た衝動で、次に感じたのは楽しいという感動だった。そう、楽しかったのだ。六爪と双槍とが弾ける音が脳の奥に快感すらもたらし、普段とは比べようもない程に身体が軽く感じられた。死合いを幾度も重ねるうち、漸くこの友は殺すには惜しい存在と気付いたのは政宗殿に遅れること二月程のことである。更に仕合いを重ね、折れ飛んだ木刀を探していたとき政宗殿から恋慕の情を打ち明けられたのも、実はそれ以前に何度も試みられた果てのことだと言うのにそれまで全く気付くことが出来なかった。
「Hey,黙るんじゃねえよ。バトルの最中に考え事なんて、野暮なことしてくれるじゃねえか。」
声にはたと我へ返り、木槍を握る手に力を入れなおした。
「あいすまぬ……。昔のことを思い返しておりました。」
「昔?」
問い返しながら政宗殿が一歩踏み出す。それに合わせて体を横様に振り、振り下ろされる刀を避けるのと槍を振り裂くのとは同時だった。それすらも避けられたけれど。まさに、互角。
「出会った頃の。」
政宗殿と同時に遊びのための得物を握る手を緩めた。
「Ha! そうか俺たちが会ってもう随分経つんだな。何度も仕合った、ちなみにこれは"恋仲"になってから100回目の仕合いだ。」
「こっ……!?」
休憩にと口に含んでいた水を危うく噴出しかけた。然程突拍子の無いわけでもなく、失礼であったとすぐに気付いて居住まいを正した。確かにあの日、某は政宗殿に了の字を返したのだ。
「Huh? まだ照れてやがんのか。それとも"恋など破廉恥"だからダメってか?」
言いながら政宗殿の目は某を試すように据えられた。真摯な、どこか切なさを孕んだ視線に居たたまれなくなる。
「某が遠ざけてきたものは、何と申すか、もっと女々しいものにござる。たとえ戦さ女でも女子はか弱く、某では守れなくなるのではと、不安で……。」
「お前が世界中の誰よりも俺の強さを知ってる筈だぜ?」
某が言葉尻を濁すのを遮って政宗殿が言った。今度は挑戦的に笑って。某は政宗殿のその表情が好きだった。その表情に突き動かされるように、某も政宗殿を見返して言う。
「はい。某の中で、政宗殿だけは特別でござる。」
「その特別が恋なんだよ、覚えとけ!」
政宗殿は勢いよくそう言うと、照れ隠しか蹴りを一発くれた。お礼に不意打ちと槍を掴むと、政宗殿はすぐさま間合いを取った。ヒュッという息遣いが聞こえる。また実践さながらにジリジリと見合い、数秒か、数瞬か。自分以外全ての時間をゆるゆると感じ、政宗殿のコメカミから汗が一筋見え、それが流れ落ちるのもゆっくりに感じられた。ぱた。
「幸村、今までの戦績を覚えているか?」
地面に滴が落ちた瞬間、二人の緊張が解けて政宗が言った。
「こ、恋仲になってからの99戦でござるか……?」
「Oh right,32勝32敗35分ってとこだ、好きだよなあ俺タチ。記念すべき100戦目はよ、負けた奴が一日勝った奴の言いなりになるってのはどうだ? You see?」