長曽我部が毛利を改心させるお話。
最後の、7話にはエロがありますのでご注意を。

親就 - - 01

 出会いは瀬戸内の戦場。豊臣軍が戦艦を出したというので警戒していたのだが当の巨大戦艦には毛利軍が先にあたっていた。参考程度に見物していたのだ。

 敵船に乗り込み独り戦う彼の姿は舞っているように見えた。実際あの武器の成り立ちからくるくると舞いながら敵を容赦なく斬っていく。端正な顔が何の感情も映さずに郎等を切り捨てる様は異様なほど妖艶に、美しく見えた。聞いていた話では毛利は兵を捨て駒のように扱うという。今回はどんな策略なのか知らないが彼は独りで切り込んでいる。何てことはない。小賢しい策を練るらしいが今彼は兵の助けを借りずとも豊臣の戦艦の中枢まで進んでいる。美しく強い。ひとりふたりとまた敵がなぎ払われる。一瞬その男と目があった気がした。鋭い目。この距離では見えはしないのだが何故だかその口元が笑みをたたえていたように見えた。もう一度見直そうとしたときにはもう此方を向いてはいなくて、また何人もの敵を倒し戦艦の奥へ奥へと進んでいく。

 半日もしないうちに豊臣軍の戦艦は引き返していった。毛利の安否は知れないが関係のないことだと警戒を解き居城に戻ったのは過ぎた日のこと。

 今は敵として毛利が居る。捨て駒扱いされる無数の兵たちと、あの日美しく舞っていた切れ目の男。重騎の準備が少し遅かったらしい。部下を盾に此処まで一気に駆け抜けてきたその手前は鮮やか過ぎて素晴らしいものだった。俺にはとてもじゃないが真似出来ない、真似する気にもなれない。奥歯を噛み締めると脳の両側からざりりと血の味が伝わってくる気さえした。理解出来ない。ただ理解出来ないという俺が拒絶する分だけこいつは孤独なんじゃないかと、そんなことは容易に想像できた。想像は出来ても矢張り理解は出来ない。例えばもっと昔に出会っていれば俺がその道を正してやれただろうか。考えても意味の無いことから目を戻すと其処には端正な顔。その美しさが無性に悲しかった。
「寂しいんじゃないのか?」
「貴様には関係の無いことだ。」
激昂。日輪を構える型に幾ばくかの隙が生じ、変わりに凄みが増す。氷の面の男 が動揺しているのか、もしそうだとしたら今からでもこの男の道を正すことが出 来るかもしれない。一縷の希望を胸に間違いのないように槍を奮う。

 「所詮は我も、駒の一つよ……フフ、フフフ……。」
決着は意外なほどすぐに着いた。怒りに目が眩む相手を組み伏せるなど造作も無 いこと、地面に横たわるその男も同じように感じているらしい。あの目でじっと 俺を見つめている。
「どうした、早くとどめを刺すが良い。情けなど要らぬ。これが、我の業ぞ。」
諦めたような表情。倒れたまま起きようともせずただ最期を待っている男。その 目はもう死んでいてもう駄目なんだということを語る。とどめを刺してしまって 本当にいいのだろうか。さっき微かだが確かにあった希望は、今はもう無いのだ ろうか。ただこの男が笑う声だけが頭に残っている。哀しくて可憐な、か弱い声 。"フフ、フフフ……"。

「――! 太陽が……。」
まさかと思った。が、太陽は東の空から顔を出している。広い方の海。俺も向こ う岸を知らない大きな海と空の境界から。意外にすぐだと思った決着は存外長引 いていたらしい。毛利も太陽を見遣る。
「ああ、日輪よ……。」
その目は輝いていた。死んだと思っていた目がキラキラと太陽の光を受けて輝い ている。
「お前はまだ生きろ。心を殺して兵を動かしてきた男が、我を見失って死ぬなん て莫迦らしいじゃねえか。お前はまだ、生きろ。」
言った声が届いたかどうかわからない。毛利は太陽を眺めたままだ。光を受けて キラキラ輝く瞳は瞼がだんだんと下りてくる。
「我は、日輪の、申し子……。我は、駒の、……一つ……。フ、フフ……。」
そのまま彼は目を閉じた。心底穏やかな表情。とどめは刺さなかったのだから死 んだわけではないはずだ。だとしたらなんて美しい寝顔だろうか。矢張り哀しく て可憐な笑い声が耳に残る。







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