長谷堂城、真田との模擬合戦。俺と幸村の個人的な意向で実弾も真剣も使わない形で実現した、遊戯。配陣や人選みたいな所謂戦略は実践さながらにただ幸村とExcitingな戦をしたいが為だけに軍を興した。小十郎は渋い顔をしたが他の家臣達は寧ろ楽しそうな様子で、真田の方もあの忍以外は同じようなものらしい。模擬戦とはいえ戦場に立つと緊張が走る。心地よい緊張。全身の血が体温とは違う温度になってそうして自分の体に血が流れていることがわかる。血が熱くなるのか、体が熱くなるのかは未だに不確かだがこの感覚は好きだ。深く戦場の瘴気を吸い込む。
戦場を踊る紅い炎を見つけたとき俺の心臓が一瞬止まったかと思った。もちろ
んそんなことは実際にはなかったが、次の瞬間には極端に早いSpeedで脈打って
いた。その男は強く、思うさま戦場で舞う。特に体格に恵まれたわけでもないそ
の小さな体を力いっぱい振るって敵をなぎ倒していく。暑苦しい程の雄叫びが奥
州の地に凛と響く。
「独眼竜政宗殿は何処ぞ、某決闘をしに参上仕った!」
鬱陶しいまでの叫びはもちろん俺の耳にも届いた。呼ばれるのが自分の名ならば
まんざら嫌でもない。
「真田、幸村……!」
声が震えるのを感じる。声だけでなく体もだ。これは、武者震い。再び燃えるよ
うな愉悦をもたらす戦の相手にまみえてCoolになんて振舞っていられなくなる。
「奥州筆頭 伊達政宗は此処だ。」
六爪の刀を抜き名乗りを上げる。遠くても二人の距離を届いた声に幸村がゆっく
りとこちらを振り返る。
「うおお、政宗殿! この真田源次郎幸村のお相手、お頼み申す!」
振り返った顔は闘志に燃える笑顔。眩しいほどに真っ直ぐな目。
「Ha! いいぜ。来な、真田幸村……こっちだ!」
戦場を駆けて森へと向かう。其処に一対一の決闘にもってこいの人目に付かない
開けた場所があることは知っていた。
「おおお、此処で思う存分やり合えますな、政宗殿。」
幸村は辺りを見回して満足げに言う。相手はまだ戦に対する表情に変わってはい
なくて、この場所に満足するのに精一杯のようだ。一閃。仕舞いかけた刀の柄を
幸村の無防備な鳩尾目掛けて突き出す。う……、喉の奥から搾り出すような呻き
声。苦し紛れか俺の腰元の帯を掴み、倒れる。倒れる幸村の後に続いて黒い帯が
はらりと落ちる。苦しさに歪む顔は、それでも可愛いと思えた。
森の外では遊戯が続いていたが俺は大切な戦利品を抱いて一足先に屋敷に戻った。気絶したままの幸村は薄く唇を開け息をするだけで起きる気配がない。せめて一組の布団を用意して横たえたがまさか自分も一緒に横になる気にはなれず、枕元に腰掛けて幸村の顔を見つめた。
思えばどうして、遊戯の最中に卑怯な真似までしてこうして連れ帰ったのか。
雄叫びを上げない寝顔は可憐で日の本一の兵と称されるこの男もCuteだと思え
た。と言うより、あれだけ熱烈に喚かずに大人しくしていたらこいつはともすれ
ば少女に見えるほど可愛らしいのだ。くるくると猫毛に触れる。スッと通るよう
な顎と細い首。魅惑の鎖骨の上には六紋銭がかかっていて、そのまま無防備な胸
板、腹筋と続く。決して貧相ではないが筋骨隆々とも言いがたい引き締まった身
体。今まで何度か思ったことには、この男のこの姿は何のつもりなのだろうか。
夫婦で仲良く戦に出れば破廉恥と言い、忍らしからぬ女を見ては破廉恥と言い…
…幸村自身のこの姿は俺にしてみれば相当破廉恥だ。今日のように真剣勝負で無
ければ沸き立つような興奮を与えるのはむしろ戦ではなくその姿。小十郎に見つ
からないように連れ帰ったが叶うことなら返したくない。小言の五月蝿い愛すべ
き家臣はそれを許してはくれないだろうが、幸村の方はどうだろう。一見には想
像し難い。だから、止めておいた。拒絶されたときのことを考えるのは胸糞悪い
し、受け入れられるというのも望めない。ただこの男が目覚めるまではと、幸村
を見つめつづける。よくよく見ると一層華奢な体つきだった。これであれだけ強
いのだから素直に凄いと思う。しなやかな肢体を想っては自分を諌めることを繰
り返すうち辺りの喧騒が静まったことには気付かなかった。唐突に襖が開く。
「矢張り此処でしたか、政宗様。」
左肩を肌蹴させた着流しのままの小十郎が立っていた。手に持つ木刀はあちこち
凹んでいて模擬とはいえ今日の戦でも武勇を振るったことを語っていた。
「ああ。ご苦労だったな、小十郎。」
「武田の忍が探していましたよ。他の兵は引き上げましたが彼だけついさっきま
で探し回ってたんですから……気の毒に。」
労う言葉を聞きもしないで小十郎が呆れたように言う。
「もう帰ったのか?」
腕を組みなおして尋ねる。小十郎がため息を一つ。
「犯人が貴方だとはだいたいわかってましたから、なんとか誤魔化しました。」
「そうか、なら、こいつが目覚めたら送って行く。」
小十郎から視線を外して幸村に落とす。どれだけ眺めていても飽きることはない
。
「いいえ、すぐにです。忍なんてそうそう騙せるものでもありませんし、何より
何か不手際があれば真田は以後こういった遊戯に応じてくれなくなりますよ。」
小十郎も腕を組む。部屋の前に居直り有無を言わせぬ態度を見せる。
「Shit! わかったよ、連れはいらねえ。今から送って行く。」
小十郎には敵わない。しぶしぶと馬を用意させて幸村を抱きかかえる。二人で馬
に乗るために腰を抱くとそれは思ったより細かった。眺めただけで返すのは不本
意だがこうして密着しているだけでも悪くない。
「次は邪魔が入らない状況でやりたいものだ……なあ幸村。」
返事は無く沈みゆく夕日に散っていったがそれでもよかった。いつかに傾奇者が
言った、恋はいいものだと。嗚呼、恋はいいものだ。恋はいいものだ。